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執筆者の写真katsuhiko Noguchi

高齢者の歩行速度に影響を及ぼす要因について考える



これまで多くの先行研究によって加齢に伴い歩行能力が低下すること、とりわけ歩行速度が低下することが報告されており、歩行速度は寿命にも関連する要因の一つであることが報告(1)されていることから、高齢者にとって歩行速度の低下を防ぐことは重要な健康課題の一つであるといえます。

従って、高齢者を含む一般の方々が歩行運動に取り組む上では、「通常歩行(運動)」よりも歩行速度を意識した「速歩(運動)」が望ましいと考えられる訳ですが、加齢に伴う体力の低下がみられる高齢者においては、ただ単に速く歩くことを意識したところで、必ずしも歩行速度が改善するとはいい切れませんので、歩行速度に関連する体力要素を明確にした上で、それらの体力要素を維持、向上させる取り組みが不可欠であると考えられます。

先行研究によれば、加齢に伴う歩行速度の低下は歩幅の低下と歩行率の低下によるものであることが報告(2)されていますが、この2つ要因のうち歩幅の低下は筋力の低下に起因し、歩行率の低下はバランス感覚の低下に起因するものであることが示唆されています(2)。

加齢に伴う歩幅の低下に影響を及ぼす筋力の低下については、主として膝伸展筋力(大腿四頭筋の筋力)の低下が着目されていますが、歩行動作を下肢動作として大きく捉えば、スプリント動作やジャンプ動作において股関節の筋群が重要な動力源の役割を担っている(3)ことと同様に、膝伸展筋力よりも股関節伸展筋力、下肢伸展筋力を低下させないことが重要であると個人的には考えています。

いずれにしても、歩行速度に関係する歩幅を低下させないようにするためには、主要な下肢筋群の筋力を維持、向上させることが極めて重要であるといえる訳ですが、歩行率の低下に筋力の低下が関与する度合いは少なく(2)、すなわち、主要な下肢筋群の筋力を維持、向上させても歩行率の低下を防ぐことが出来ない可能性があるといえ、結果として歩行速度の低下を予防するためには不十分であるといえるかもしれません。

歩行率の低下を防ぐためには、上述の通りバランス感覚の低下を防ぐことが重要であるとされていますが、バランス感覚を定義付ける重心動揺距離は歩行率に影響を及ぼすことが報告(4)されており、片脚立位時の重心動揺距離は足趾筋力の影響を受けることが示唆されている(5)ことから考えれば、足趾筋力を維持、向上させることで歩行率の低下を防ぐことが出来るといえるかもしれません。

これらのことから、足趾筋力を含む下肢筋力を維持、向上させることが歩行速度を維持、向上させるために重要であるといえ、これらの筋力運動を速歩運動に合わせて実施することが望ましいといえるでしょう。

(1)Sun Q, et al.:Physical activity at midlife in relation to successful survival in women at age 70 years or older. Arch Intern Med.170(2):194-201,2010

(2)伊東 元,長崎 浩,丸山仁司,橋詰 謙 他:健常男子の最大速度歩行時における歩行周期の加齢変化,日本老年医学会雑誌,26(4)347−352,1989

(3)図子浩二,西薗秀嗣,平田文夫:筋収縮の違いからみた下肢三関節のトルク発揮特性,体力科学,47,593-600,1998

(4)伊東 元,長崎 浩,丸山仁司,橋詰 謙,中村隆一:健常老年者における最大歩行速度低下の決定因-重心動揺と歩行率の関連-,理学療法学,17(2),123-125,1990

(5) 村田 伸:開眼片足立ち位での重心動揺と足部機能との関連-健常女性を対象とした検討-,理学療法科学,19(3),245-249,2004

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